あかいいばら
残された爪痕から生まれる植物のかおり
潰されてゆく果実の種子
すべてをそこに置いてきたよ
風化される時をただ待つために
砂になる時をただ想うために
ああまるで ぼくのようではないですか
朽ち果てていく大樹の幹は
遠景にかすむ波の音は
絶望にも似た奇跡の抱擁
日差し
空ばかりがいつまでも美しい
この指が一本ずつなくなってゆく
ようやく見つけた糸を容易く放す
遠い過去の未来を過ぎ去ってしまった今は
また新しい朝を夢見るばかりで
病棟の床の上で息絶える虫がいたとしても
誰がそれに気づくというのだろう
毒される体の代わりに
どうぞ気の済むまま生き血を啜れ